2023/12/13

思い出の場所

先日、所用があって、本校就任前の前任校を訪れる機会があった。前任校には、退任以来一度も校内には足を踏み入れていない。約8年ぶりである。既に学校機能は、別のところに移転しており、そこは現在、併設する大学が部室等で使用していた。

警備員の方に、少し中を見せて下さいとお断りして入校した。外観は8年前とほとんど変わらない。だが、校舎内に入ると、教室は学校機能移転後、倉庫や収納スペースで使われている。曇りガラスが時の移ろいを告げる。私が4年近く使用した校長室も、鍵がかかったまま、収納庫となっていた。

懐かしさが込み上げて来て、思わず校庭に出て、校舎の外観や校庭をスマホでパシャリ。遠くでさっきの警備員さんが少し心配げに見られていたようだが、写真を撮ることに夢中だった。メタセコイヤの落葉が激しく、以前は毎日、用務員の方が掃除されていたなあ。それも今では遠い過去のこと。

時間にして10分くらいであったろうか。校庭や校舎の所々で、子どもたちと話したことが自然と思い出される。当時の内容や肉声までもが蘇る。あまり長居も許されず、そのまま警備員さんの居られる方へ行き、「ありがとうございました」と、ご挨拶。

警備員の方が、少し不審げな表情だったので、
「10年ほど前に、学校長で勤務しておりました『江口』と申します。時の移ろいは早いもので、あれからずいぶん時間が経ったなあ、とついつい想い出にふけっておりました。ありがとうございました。」と申し上げた。

すると、その警備員さんは
「ああ、あの当時の……校長先生……でしたか……」と、しげしげと私の顔を見つめられる。
そして、
「ああ、思い出しましたよ!あの当時、あそこの通用門のところで毎朝生徒を出迎えられていた校長先生ですね、思い出しましたよ!」と言って、通用門を指さしながら話して下さった。

その言葉を聞いて、少し胸の詰まる思いを感じた。
……そうです、あの時の……ボクなんです!確かにあの当時……私はここで……生きていたんです!……。
しばし感慨にふけりながらも、私は警備員さんに軽く会釈をし、校地を後にした。