2022/07/28

泉ヶ丘通信巻頭言 2

3歳児の記憶をたどっていきたい。お付き合い願いたい。
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秋晴れの午前、私はどうやら畑の隅にあった「肥溜め」にはまったようなのです。「肥溜め」とは、当時まだ化学肥料が普及していない時代に、人糞を肥料として利用するために集められた甕のようなものです。蓋はなかったと思います。

ちょうど近くの大工さんが、ひと仕事終えて、お昼ごはん時に戻ってくる道すがら、「肥溜め」で「みゃあみゃあ」と泣いている声に気付きました。きっと子猫でもはまっているのだろうと思って近づいてみると、なんと3歳くらいの男の子。

大工さんがそのまま急いで男の子を抱き上げて、肥溜めから救い出しました。私は時間にして、3時間ほど肥溜めにいたことになります。もちろんその当時は自分に何があったのか理解できず、この事実は後年母から聞かされました。

以来私は半年ほど、目は見えず、耳も聞こえずといった病院通いの状態が続いたようです。半年後、目を覆っている白い包帯が外され、視界に母と姉の笑顔が映ったとき。これは今でもはっきりと覚えている光景です。みんな涙を浮かべて、声になりませんでした。

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本日はここまで。