2022/08/05

母の笑顔 1

お墓参りやご先祖供養をされる方もこれからおられよう。本日より5回シリーズで、個人的な話なのだが、今は亡き母の想い出を語りたい。お盆に寄せて、先祖を思うということを共に考えられればと思う。では、お付き合い願いたい。
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2015年(平成27年)正月、親戚一同が集まった宴席でのこと。私が出勤前に、母と散歩することを決めたのは91歳の母の面倒を、長姉夫婦が一手に担っている後ろめたさがあったからである。行き掛かり上、「温かくなったら、週に1日、出勤前に母と散歩する」ことを一同の前で約束した。

母の住まいは、電車で20分ほどの住宅地。ちょうど職場と自宅の中間に位置する。その母と過ごす朝の時間は、自分の貴重な時間を奪われるという感覚だったが、日曜日が潰されるよりは、ましだという自分なりの合理的判断だった。

年老いた母を見て、「温かくなったら散歩に誘う」という微妙な基準をいいことに、心のどこかで、春の訪れが例年より遅れることを期待していた。そこには、いつでも会えるという無責任な言い訳と都合のいい冷徹さがあった。

ところが、桜は例年より10日近く早く開花する。いよいよ温かくなってしまった。正月の約束を忘れていないという長男の威厳を誇示するかのように、早速、母との約束を履行することを電話で告げる。そんな私の傲慢な態度にも、母は心の底から喜んでいた。電話口から溢れる母の喜びが大きい分、私の憂鬱は募った。

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本日はここまで。