2022/08/06

母の笑顔 2

本日2日目の掲載である。お付き合い願いたい。
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初めての散歩の日。家に着いて玄関を開けると、母は上り口にちょこんと座っていた。少し派手目の外出着。満面の笑顔の中に、うっすら化粧が浮かび上がる。小柄な母が、より一層小さく見えた。

「おはよう!」と、声かけると、
「おはよう!」と、さらに目を細める。奥から出て来た長姉が、
「もう、お母さん、ここに30分以上座ってるんやから。まあ今朝は温かいからええけど、シゲ君(私のこと)、お母さん今朝、何時に起きたと思う?」と僕に尋ねる。(身内はみな私のことを「シゲ君」と呼ぶ。)

約束の時間は午前7時。今6時55分。
「そやなあ、6時頃かな?」と言うと、
「とんでもない!4時半に起き出して、隣で寝ている私を、起こして、いろいろ用意させるんよ。もう、お陰で、こっちは完全に睡眠不足やわ。」と、口をとがらせる。
「まあ、これだけ明るいお母さん見るのも、久しぶりやし、それはそれでええんやけどね」と、母の元気な姿に満足げな長姉。

「まるで、デートに行くみたいやな」と、私がおどけながら母に話す。聞こえているのやらいないのやら。ちょこんと佇んだまま、にこりと笑っている。

「お母さん、シゲ君来たで。さあ、行こか?」と長姉が、耳元で語りかけ、靴を履くよう促す。促されるまま、母は静かに上り口から足を下ろし、ゆっくりゆっくりと靴を履き出す。そのたどたどしい指使いとすっかり丸味を帯びた背中に、一瞬戸惑う自分がいた。

「さあ、お母さん、行こか?」そう耳元で語りかけ、母を立たせて、横に用意されていた「ゴロゴロ」と言われる手押し車に手を掛けさせ、玄関口をゆっくり出た。この「ゴロゴロ」は確か数年前、母の誕生日に次姉の提案で、姉弟3人の折半で購入したもの。

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本日はここまで。