2022/08/07

母の笑顔 3

お休みのひと時である。3日目お付き合い願いたい。
-----------------------------------------------------------------------

散歩といっても町内をぐるりと一回りするだけの簡単なもの。健康な大人の脚なら5分程度。それでも母にとっては、30分はかかった。

道中では一方的に私が話をする。すっかり耳が遠くなった母に、どこまで私の話が通じているかは分からない。ただ、沈黙が怖い私は、四六時中何かを話していたように思う。母にはその雰囲気だけでも、充分楽しげな笑顔が見てとれた。

白状すれば、その時私は、母に悟られまいと、話しながらも始終時計をチラチラ見ながら過ごした。あと何分……。長姉に母を引き渡すと、余韻に浸る間もなく、そそくさと最寄り駅に急いだ。

翌週の散歩の日。先週と同じように、家に着いて玄関を開ける。上り口に座っていると思っていた母の姿がなかった。………おいおい、まだ準備が出来てないのかいな。今朝は忙しいんやで……。そんなゆったりしてる余裕は、あんまりないんやけどなあ………

仕事が立て込んでいるため、先週より30分早く散歩するように告げていた。少しカリカリしながら、ズタズタと玄関口を上がり、母の居る部屋の戸を開けた。たどたどしい姿で、慌てながらも無様な姿で外出着に着替えている母を想像していた。

部屋は静寂に包まれていた。ベッドで静かに眠っている母。私が戸を開けても全く動かない空気。少し驚きを禁じ得なかった私に、長姉がいたずらっぽい表情を浮かべ、傍に来た。

「お母さん、2・3日前から風邪こじらせて、熱が38度近くあって、病院行って点滴打ってもらってるんよ。風邪らしいけど、そりゃ夕べも大変やってんから」と、事情を話す。大変なわけは、明日散歩には絶対に行くと言って、まったく周囲の言うことを聞かなかったということらしい。

-----------------------------------------------------------------------
本日はここまで。続きはまた明日。