2022/12/11

母との想い出 2

特殊な家庭環境だという思いは、年齢と共に強くなる。母が働くのはまだしも、家計を支えている。家には病弱な父が本を読みながら、勉強している。母は忙しく朝から晩まで働いている。末っ子のボクは、まだまだ母に甘えたい気持ちがあったのだろう。「参観日に来てほしい」と、言っていたのかもしれない。それは無理だと分かっていながら。

話を小学校3年生の参観日に戻そう。教室の生徒が一斉に振り返った中、つかつかと、買い物かごを下げた普段着の女性がひとり入って来る。それは……、私の母だった。???一瞬の戸惑いを見せたが、すぐに状況を把握した私は、席を立って急いで母の下へと駆け寄った。

「お母さん、参観日は明日やで!」参観日を一日早く、間違えてやって来た母を制そうとした。教室内がざわつく。ボクは、母に恥をかかせまいと必死になって、その場を繕おうとした。それに対して母が毅然と言った。

「分かってる。でも、明日は来られへんのや。だからこうして今日来たんや。」この言葉に教室内の誰もが言葉を失った。授業をしていた担任も、「どうぞ、お母様、ご覧になってください。」と言って、母の参観を認めた。

教室のざわめきが収まり授業が再開されたが、私は授業どころではない。恥ずかしさと居たたまれなさで、ずっと下を向いていた。幸い、授業時間は残り時間5分程度だった。チャイムが鳴ると、母はそのまま担任に軽く会釈して出て行った。その後、友だちとどんな話をしたかは覚えていない。


母が毅然とした態度で、明日来れないから今日来たのだという言葉は、今でも私の心に焼き付いている。参観日の私の唯一の想い出である。後にも先にも、母が参観に来てくれたことは、これだけである。