2023/05/18

1982年のころ 3

会計は、既に母が済ませていた。これで一段落。納得顔の母をよそに、私は大きな箱と百貨店の紙袋を抱え、母たちとはそこで別れ、バスに乗り込み、重い足取りで一人下宿に戻った。
 
とりあえず、荷物を広げ、もう一度スーツに袖を通そうとしたが、ネクタイの締め方が分からない。結局、部屋の床に乱暴に脱ぎ散らかしたまま、時間だけが過ぎていく。10月1日が近付くが、スーツは床の上で静かに眠ったまま。
 
解禁日が近付くにつれ、慌ただしく旅立つ友だち。「江口は?」という質問に、明確な答えもない中、そのまま大学で過ごす。友だちの中で残っていたのは、教員志望と院生志望の連中くらい。多くの仲間が姿を消し、やがてポツポツと姿を見せ始める。
 
1週間後、友人からの喜びの声。
「江口、オレ、〇〇という大手磁器メーカーから内定貰った。行くことにした。江口はどうするの?」

「……」無言を貫くしかない私。
「お前、いつから陶器や磁器に関心があるようになったんや?少なくとも、ぼくの前ではそんなこと一度だって言わなかったやないか?」
「……」

「そんなに自分に嘘をついてまで、就職するということは大事なことなのか?」当時の自分の疑問や不満を友にぶつける。友からもっともらしい理屈を返されたが、聞く耳持たず。当分彼と距離を置いたように思う。


本日はここまで。