2021/10/12

ある高3生の吐露

夕べ、生徒の送り出しがひと通り済んだ時分。ひとりの高3男子生徒が下足箱から昇降階段の方へ出てきた。いつも友達同士で帰っているのに今日はひとり。すっかり反抗期も抜けたみたいで、その精悍な姿を嬉しく思い、声を掛けてみた。

「おう、久しぶり、今日はひとり?」
「はい」
屈託のない返事が返ってくる。
「中間テストが終わったけど、高3生にとって中間テストはそれほど大きな壁じゃないよね」と、校長。
「そうですね、それより模試の結果の方が気になります」
そう言って明るく返答してくれる。

「ところで、志望校はどこなの?◎◎大学?」と、当て推量に突っ込む校長。
「いえ、〇〇大学です」と、私の言葉を毅然と否定。その志の高さについつい、
「へえ、凄いんやなあ。で、学部は?」
「△△部です」
「へえ、やっぱ、凄いやん」と言うボクのテンションに,なぜか少しうつむき加減の男子生徒。おもむろに心境を話し出してくれる。

「実は、先日返ってきた模試の結果なんですが……」その結果を言いよどんでいる姿がアリアリ。そこで、
「イーハン(E判定)やってんやろう?」って、明るく再び当て推量。
「ハイ……、ずっとイーハンなんです。志望校は下げるな、変えるなって言われているんですが、本当にそれでいいのかな?って思い始めているんです」と、心中を吐露。

「今そんな状態なら、精神的にしんどいんちゃう?肩にずっしり重荷を背負っているみたいなんちゃう?」と、現状を慮る校長。
「そうなんです。イーハンから全く進歩無し。も少しレベル下げようかなと思っているんですが……」と、表情はますます曇りがち。

「あのなあ、大学入試はなあ、お前さんにとっては、人生始まって以来の未知なる世界への挑戦やろうけれど、これまで過去に多くの人たちが通り抜けてきた道やで。決して前人未踏、人類初の大冒険でも何でもあらへん。たくさんの人が通り抜けてきた道やということを知っときや。そのうえで今まあ、重荷を背負ってることは、めちゃくちゃ大事な学びの場やで」
「………」
「これから、長い人生でもっと大きなものを担がなアカン時が来る。その時のためにも、今はぐっと耐えてこの重荷を背負い続けなさい。プレッシャーと闘いなさい。そして、共通テストが終わった段階で、しっかりリサーチをかけてそこからは改めて現実を見よう。その時点でしっかり先生方や家族と話し合いなさい。」

「………」
「まあ、あまり先々のこと考えるな、足元見つめて、まずは模試の間違い直しからや。地道にコツコツやるしかない。ええか?今めちゃくちゃええ経験をさせてもろてるんやで。この苦しさこそ、将来の宝物になるからな、頑張れとは言わん、もう充分頑張ってるはずや、そうやなくて一日一日後悔するな。わかった?以上!」

そんな言葉掛けをして、彼を送り出した。別れ際に彼が見せたかすかな笑顔に、明るい可能性を感じた。現役生の闘いはまだ始まったばかり。健闘を祈りたい。