2020/02/22

ことばの贈り物 2020/02/22

たまたま廊下を歩いていると、急いでトイレに駆け込む男子生徒。思わず声を掛ける。
「おい、どうだった?」
その一言で彼とは通じ合う。少しばかり気に留めていた生徒の一人だった。

自分のことを呼ばれているのだろうと思ったのか、トイレに駆け込むのを中断してすぐに引き返してきた。彼の頬が大粒の涙で濡れていた。彼にとって誰にも見せたくはない姿。だからトイレに駆け込んだに違いない。それを押して、僕の方へ歩み寄ってきてくれた。その時、大方の予想はついた。

「ダメでした」そう応えることが精いっぱい。その言葉と同時に、涙が頬を溢れんばかりに伝う。負けず嫌いで、いつも前を向いている清々し青年の面影は消えていた。
「よしよし、ナイストライ!お前さんが、そういった最難関大学にチャレンジしたことにこそ大きな価値がある。大切なことは、今のその悔しさを絶対に忘れないこと、そして新たな環境でこれまで以上の努力を重ねて、次のステージでの結果にこだわること。学べたことは大きいゾ!」

僕の話す間、じっと向けられたまっすぐな瞳。
「はい、気持ちはすでに国公立大学に切り替わっています!」
少し気を取り戻したのか、最後はニコッと笑顔でトイレの方に消え行った。その後ろ姿を見送りながら「ここからだぞ!」そんな言葉をつぶやいている自分がいた。

受験はその人を一回りも二回りも成長させる。彼がこれからどんな人生を歩むのか。まだその最初の一歩を踏み出したばかり。まぶしく輝いていた青年の後ろ姿が、少しの間僕の心を灯していた。